食事の役割は栄養だけじゃない!腸内細菌の役割と人間にもたらす影響
今回は、最近重要性が注目されている「マイクロバイオーム」について書こうと思います。
ちょうどこの前、アスリートの腸内細菌を移植してどうのこうのっていう企業を作った人のインタビューを見たわ
そうなのね。企業ができるくらい期待されている分野の話で、今回は基本的な話から詳しくご紹介します。
- 1. マイクロバイオームの役割と人間にもたらす影響
- 1.1. マイクロバイオームってどんな存在?
- 1.2. マイクロバイオームはどこに存在するの?
- 1.3. マイクロバイオームの研究は近年急速に進化した
- 1.4. マイクロバイオームの形成と重要性
- 1.5. 腸内には活発に活動している細菌が多く存在する
- 1.6. 人間は産まれた瞬間から細菌に感染している
- 1.7. 授乳期もマイクロバイオーム形成に重要
- 1.8. マイクロバイオームの形成は幼児期までが大事!
- 1.9. 腸内細菌の種類には地域は関係ない
- 1.10. おまけ:日本人はユニークな腸内細菌を持つ
- 1.11. マイクロバイオームはすぐに変化する?
- 1.12. マイクロバイオームの役割とは?
- 2. マイクロバイオームの研究はこれからさらに進化する
- 3. おまけ:母乳育児は大事だよ
- 4. まとめ
マイクロバイオームの役割と人間にもたらす影響
マイクロバイオームってどんな存在?
今回紹介するマイクロバイオームとは、腸内細菌をはじめとした我々の体内や体表に存在する細菌叢の総称です。
マイクロバイオーム。日本語で言うと細菌叢(さいきんそう)。
最近は潔癖症の人も増えていますが、コロナウイルスの影響もあって除菌・殺菌に関しての意識もかなり高くなっていますよね。
今回の話では我々人間はやっぱり細菌がいないと生きていけないんですよという話をします。
細菌をはじめとした微生物というのは地球が生まれてから早い段階に生まれた生き物で、我々人間の大大大先輩なわけです。
つまり我々が魚からヒトに進化していく間ずっと細菌はそこにいたわけで、細菌とともに我々の体は進化してきたと言っても過言ではありません。
もちろん今現在でも細菌と人間は共生関係にあるといえます。
マイクロバイオームはどこに存在するの?
では、具体的に体のどんなところにいるの?ということですが、体中のほぼ全体に存在します。
体の表面はもちろんのこと、口の中や胃、腸の中など体内にも存在します。
口の中には虫歯菌がいますし、胃の中にはピロリ菌もいます。これらは悪い菌ですが、有益な細菌もたくさんいます。
乳酸菌などが有益な細菌としては有名ですね。
これらの細菌は体内の過酷な環境下で生きることができる特徴も持っています。
胃の中は酸性の環境なので、酸性下でも生きていける菌だけが残っていますし、腸の中は低酸素な状態になっていてそのような環境で増える菌がたくさんいます。
細菌っていうと悪いイメージがあるけど、人間と細菌は共生関係にあるんやな。
マイクロバイオームの研究は近年急速に進化した
細菌については皆さん聞くことも多いと思いますが、実はマイクロバイオームについての話ができるようになったのは、ここ10数年ほどの話でかなり最近の研究結果に基づいています。
マイクロバイオームに関する研究を一気に進化させたのが次世代シーケンサーという技術で、我々分子生物学者の業界ではかなり画期的な世界を変えるような発明品と言われています。
これによって少しのサンプル(1つの細胞など)からかなりたくさんの遺伝子などの情報を検出することができるようになり、一気にマイクロバイオームに関する研究が進みました。
今回は、マイクロバイオームに関する研究結果も紹介しながら具体的な話をしていきたいと思います。
マイクロバイオームの形成と重要性
ここからは、マイクロバイオームに関する研究も併せてご紹介しようと思います。
基本的には腸内細菌に関する研究が多いので、みんな大好きうんちの研究です。
腸内には活発に活動している細菌が多く存在する
1267人のうんちを調べた研究があります。
1267人からとったうんちを先ほど紹介した次世代シーケンサーで網羅的に調べてどんな生物の遺伝子があるかということを調べました。
その結果、1千万個もの遺伝子が検知されたのです。
このことから何がわかるかというと、腸に住んでいる細菌というのはただたくさんいるだけではなくて、ちゃんと遺伝子を使って活発に活動しているということです。
人間は産まれた瞬間から細菌に感染している
食事中の方がおられたらあれなので、うんちの話から少し離れます。
我々は産まれた瞬間から多くの細菌に晒されていて、もっと言えば産まれる前から晒されているかもしれない。
産まれる時には膣から出てくるわけですが、そこには乳酸菌や乳酸桿菌類といった細菌が存在しているので、産まれ出てくるときから感染した状態で出てきますし、帝王切開であっても赤ちゃんを取り出すときには皮膚に触れるので、皮膚にいるブドウ球菌といった細菌が付いて産まれてくるわけです。
このように産まれ方の違いですらもその人が持つマイクロバイオームに影響を与えます。
産まれた時点からどんな微生物に曝露するかというのが、その人の人生において重要な役割を果たすマイクロバイオームの形成に影響を及ぼすのです。
授乳期もマイクロバイオーム形成に重要
もう少し大きくなると、お母さんの肌に触れて母乳を摂取することになります。
母乳を飲むようになったらどういうことが起きるかというと、授乳の際に母親が持っている細菌叢を受け継ぐことになります。
このように菌を取り込む上で重要な授乳期に粉ミルクだけで育てていたり、病気になってしまって抗生物質を飲んだりするともちろん細菌が入らないため、マイクロバイオームの形成が不十分になります。
たくさんの微生物を取り入れられないそういう子供はどうなるかというと、アレルギーやぜんそくなどの疾患にかかりやすくなることがわかっています。
産まれる瞬間から食べ物や周りの環境などによってマイクロバイオームというのは日々変わっていくわけです。
マイクロバイオームの形成は幼児期までが大事!
そのマイクロバイオームを形成する時期というのは3歳までと言われていて、3歳までにいろんな菌を自分の体の内外にストックします。
ライブラリーとしてこんな菌に会ったことがあるよというものをちゃんと作って、その後はそれを元にマイクロバイオームを形成していくというようなことをしているのです。
そのマイクロバイオームを基に、例えば環境の変化や病気の罹患、食事などによってライブラリーとして持っている菌の数が増減したりするんですね。
3歳までにたくさんの菌を覚えておいて、それ以降はそれをどうやって環境に合わせて使って生きていくかということです。
小さい頃に細菌に暴露しないようなかなり潔癖な環境で育ってしまうと細菌のライブラリーが少なくなってしまって悪影響が出るかもしれないってことやな。
以前YouTubeにて紹介した論文で小さい頃にどろんこ遊びをした方が、大人になったときの社会的ストレスが少なくなるという話がありましたが、興味がある方はこちらもご覧ください。
腸内細菌の種類には地域は関係ない
ここからは報告されている論文の内容に関してもう少し具体的な話をしていきます。
下のグラフを見てください。青色がアメリカ人で緑色がアメリカインディア、赤色がマラウイ人を表しています。
これらの人たちを集めてそのうんちからマイクロバイオームを調べました。
その結果どこに所属している人たちが似ているかというのが左側のグラフで、アメリカ人よりもアメリカインディアンとマラウイ人の方が似ているということがわかります。
つまり地理的な環境によって腸内細菌叢が決まっているわけではないということがわかったわけです。
ちなみにアメリカ人は他の二つの人種と比べて持っているマイクロバイオームの種類も少ないんです(右図)。
マイクロバイオームの種類、数が少ないということは恐らく先ほど説明した潔癖な環境が関係しているのではないかとも考えられます。
具体的にアメリカ人が腸の中で飼っている細菌とインディアンたちが腸の中で飼っている細菌にはどのような違いがあるかというとインディアンやマラウイ人の人たちが持っている細菌はアルファアミラーゼという酵素をよく使っている細菌がたくさんいるということがわかりました。
これは何でかというと、恐らく植物をたくさん食べる食文化なので、そのデンプンを栄養として使える細菌がたくさん増えるからであると考えられます。
その結果アミラーゼをたくさん持つ、植物系のものを代謝する細菌がたくさんいるということに繋がるわけです。
一方でアメリカ人の持つ細菌はどんなものかというと、フルクトースやグルコースといった砂糖をよく分解する酵素を使う細菌がたくさんいるということがわかりました。
アメリカ人って甘いもの好きなイメージあるもんね
このように人種によって持つ細菌の違いというのは普段食べてるものの違いから生じるのだろうということがわかります。
つまり、3歳までにいろんな細菌をストックして、それから我々がいろんなものを食べることによって体の中の細菌の種類というのを変えてるということです。
おまけ:日本人はユニークな腸内細菌を持つ
ここで日本人の腸内細菌についても少し触れておきましょう。
実は日本人は面白い細菌を飼っていて人間が普通分解することができないセルロースを分解する細菌を持っているんです。
日本人は海藻を食べますよね。
本人は長い歴史の中で海藻の表面に付いていた「海藻を食べる細菌」も取り込んでいて、その遺伝子が日本人の腸内細菌に定着し入り込んだらしく、日本人はセルロースという植物性の普通人間は分解できない物質を分解できると言われています。
雑草とかも消化できちゃうかも知れないね
そうだね。日本人にとっては寒天を食べてもゼロカロリーじゃないってことよ。
このように日本人に独特なものもいるというぐらい食文化などによってマイクロバイオームは変わっていくということです。
マイクロバイオームはすぐに変化する?
3歳くらいから獲得されるマイクロバイオームですが、どれぐらいの食生活の変化によって変わるのかということも実験されていて、数日で変化することがわかっています。
被験者を用意して肉多めの食事をさせる群や植物多めの食生活させる群を作り実験をすると、3〜4日でマイクロバイオームに変化が起きるということがわかりました。
ということは普段食べているものをちょっと変えるだけですぐにマイクロバイオームに変化が起きるということ。
これは結構当たり前の話で、普段植物系のものをたくさん食べている人は腸の中には植物としての栄養がたくさんあるため、植物を栄養源にする細菌がより増えるということです。
食事が肉に変わったときには肉から得られる栄養によって増えることができる細菌が急激に増えるわけですから、マイクロバイオームは大きく変化するわけです。
マイクロバイオームの役割とは?
「マイクロバイオームが重要っていうけど、じゃあそのマイクロバイオームが変わると何が変わるの?」と思いますよね?
ここについても研究が進んでいるので紹介していきたいと思います。
マイクロバイオームの主な活動としては胃や腸の中で食物を分解することが挙げられます。
マイクロバイオームが変化すると、与えられた食べ物を分解した後に出てくる低分子などといった副産物の種類が変わります。
それが人にとってすごく重要なんじゃないかというのが最近のマイクロバイオームの研究なんです。
マイクロバイオームと疾患の関連というのがすごくわかっていて、これぐらい多くの疾患と関連があります。
めちゃくちゃ病気と関係あるやん
よく聞くものでは、うつ・睡眠障害・自閉症スペクトラム・循環器系の疾患・肥満・糖尿病・がん・脳疾患などまさに万病のもと!
肥満とか糖尿病というのは正直腸内にいる細菌と直接関連してるからまあわかりやすいんだけど、やうつ睡眠、自閉症、老化関連の脳疾患脳に関わっているのは驚きました。
細菌が出したものが我々の脳にまで影響を与えているというのはかなり衝撃的なことですよね。
これからは食生活を考える上で自分が何を食べようかなじゃなくて細菌に何をあげるかって考えないとね。
細菌を飼っているというスタンスですね。
そうそう。「細菌に植物あげないとー」っていうレベルで食事を考えないといけないんじゃないかなっていうふうに思っています。
この細菌がこの疾患にどういうメカニズムで関わっているなどといった詳しいことはあまりわかっていませんが、多くの病気に関係していることはわかっていて、マイクロバイオームの乱れが直接疾患を招くというマイクロバイオームの重要性を示す報告が集まってきているのです。
マイクロバイオームの研究はこれからさらに進化する
先ほど説明した通り、体の中に食べ物が入ると細菌の代謝物というのが人間の体に吸収されてそれが全身を回って脳や脂肪細胞などに影響を与えるわけですが、この研究をやっているのはほぼマウスです。
人では少しずつやられているらしいですが、報告はあまり多くありません。
他人のうんこをお尻に入れるの抵抗あるもんね。
そこはカプセル飲むとか上手くやってるんじゃないかな?
実際すでにうんこビジネスをやってる人いますからね。
今後、人間での実験も進んでマイクロバイオームと疾患をはじめとした様々なことの関係性が明らかになってくるでしょう。
おまけ:母乳育児は大事だよ
幼少期の細菌への曝露が重要っていう話だったけど、最近母乳を与えている人減ってるし、悪影響ありそうやな。
母乳はそういう意味であげた方がいいと思うし、なるべく子供は汚い環境で育った方はいいよね。
本来の野性的な育て方というかね。そういう風に進化してきたわけだから。
そう。そこから外れちゃうとやっぱり何かしらの弊害が起きるからね。
最近アレルギーが増えているとかはこれが原因なんじゃないかとも思うよね。
実際に喘息とかアレルギーも幼少期のマイクロバイオームに関係しているそうで、ある乳酸菌を持っていると炎症の免疫システムが変わって喘息などを引き起こしにくくなるということがわかっているそう。
乳酸菌がいるだけで免疫システムが変わって循環器系に影響を与えるっていうところまでわかっているんですね。
それをちゃんと母乳から取っておかないといけないということ。
乳酸菌というと各社いろいろなのがあるよね。
ホームページを見てどの乳酸菌がいいか選んで飲んでみたらいいかなと思います。
俺もちょっと気になって調べたのよ。乳酸菌なんで普通胃酸で溶けるだろうと思って調べたら、一応各社いろんなことをやって死なないようにしているみたい。例えば低PHでもなんとか生きていけるようなセレクションをかけたりとかしていい株をちゃんといろいろ作ってるみたい。
腸まで届くとか言ってるもんね。あれは嘘じゃなさそうやな。
嘘じゃないんやけど、どれくらいの確率で生きてるかはわからないけどね。1億個に1個とかかも知れないけど。笑
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回の話ではマイクロバイオームがどういう役割を持っているのか、腸内など細菌の環境は食事などの簡単な環境変化によって変わりやすいということをお話ししました。
その変化というのが脳であったり肥満であったり・・・できればなりたくない病気にたくさん関わっているのもわかっていただけたと思います。
この記事を読んだみなさんはぜひ、腸内細菌のために食事を考えてみることも検討してみてはいかがでしょうか?
それでは次の記事でお会いしましょう〜。