ヒラメとカレイの左右の違いはどのように生じるのか?

先日、カレイの煮付けを食べていてふと思いました。

「カレイは右側に顔が寄ってて、ヒラメは左に寄ってるけど、この違いはどうして生まれているのだろう・・・。」

おっくん

調べてみると間違ったことを言ってる人もいたので、正しい科学的知識をご紹介するよ

Youtubeでもご覧頂けます。

ヒラメとカレイの左右の違いはどのように生じるのか?

ヒラメやカレイの分類について

おっくん

まずはヒラメとカレイの分類についてご説明しておきましょう

一般的に顔を上に向けた時に左を向いているのがヒラメ。右を向いているのがカレイと言われます。

大きな括りで言うと、ヒラメもカレイ目の中に分類されており、カレイ目カレイ亜目ヒラメ科の魚になります。

もちろんカレイはカレイ目カレイ亜目カレイ科でございます。

そして、驚くべきことにカレイ目は世界に700種類ほど存在すると言われています。

そんなに種類が多いこともあって、分類は結構難しいと言われています。

ヒラメの仲間だけどダルマカレイという名前のものも存在します。

たっきー

ややこしいな

おっくん

スーパーで舌平目って売ってるでしょ?あれはどちらでもないのよ

たっきー

カレイ目ではないってこと?

おっくん

カレイ目の中のウシノシタ科に属するんだって

ヒラメとカレイは右か左かだけの単純な分類ではないんです。

それでは、左右に違いが生じるメカニズムについて話を進めましょう。

生物の左右非対称性を作る遺伝子

ヒラメとカレイは、他の魚と違い平べったい見た目をしていて、顔が右か左に寄っているのが特徴ですが、実は稚魚の時には他の魚と同じ見た目をしているんです。

成長していく過程で、顔が歪み左右のどちらかに寄ることになります。

写真を見るとG-Stageで顔が歪んでいるのがわかりますね。

この体の左右非対称性は、実は生き物にとって不思議なことではないんです。

おっくん

例えば、僕たち人間も心臓が左によっていたり左右の非対称性はあるよ。

そして、この生物の左右非対称性についてはそのメカニズムがある程度わかってきています。

生物は、発生(受精してから個体になっていく過程)の途中で、ノードと呼ばれる組織において左向きの水流(ノード流)が生じています。

これはごく微少な毛のようなものが回転することによって生まれる水流です。

この水流の向きによって生物の左右非対称性は生じていると考えられています。

この水流は哺乳類ではお腹のあたり、魚ではしっぽのあたりで生じます。

たっきー

高校生物でも習うと思います

それでは、このノード流がヒラメやカレイの左右非対称性を生むのでしょうか?

答えはNoです。

このノード流は全ての生物で起きている現象であり、左右決定に必要な遺伝子であるpitx2と呼ばれる遺伝子が関係していますが、もちろんメダカなどの他の魚類でもpitx2は存在し、ノード流も発生します。

しかし、メダカはヒラメやカレイのように顔がどちらか片方に歪むようなことにはなりません。

それでは、ヒラメやカレイはどのようにして左右を決めているのでしょうか?

ヒラメやカレイの左右非対称性はさらに複雑に生じる

前述した左右決定遺伝子のpitx2ですが、これまでのゼブラフィッシュを使った研究では、胚発生(卵の段階)でのみ使われている遺伝子で、泳ぎ出した後は使われないということがわかっていました。

しかし、ヒラメやカレイでは泳ぎ出した後、特に変態する時期にpitx2が再活性化ことが明らかになっています。

たっきー

ということは、このpitx2の再活性化がヒラメやカレイの左右を決める犯人ということですな

おっくん

そう思ってしまうんやけど、実は違ったのよ

左右決定遺伝子pitx2は、ゼブラフィッシュにおいては胚発生の時にのみ活性化すると考えられていたのですが、メダカやフグ、カンパチといった他の魚ではヒラメやカレイ同様、稚魚期にも活性化することが明らかとなってきました。

つまり、このpitx2の再活性化がヒラメやカレイの左右を決めている直接的な要因ではないということです。

じゃあ何が犯人なのか?

いよいよ核心に迫ります。

ヒラメやカレイをよく調べてみると、目から脳につながる神経に違いがあることがわかります。

魚類の視神経は、左目から右脳に右目から左脳に伸びていることがわかっています。

この時、視神経は交差しますが、この交差している部分を視交叉と言います。

この視交叉ですが、メダカやフグ、カンパチといった左右対称の魚類では、右目からの視神経が上になることもあれば、左めからの視神経が上になることもあります。

ランダムということです。

一方で、ヒラメやカレイではこれが決まっていて、カレイは左目の視神経が上、ヒラメでは右目の視神経が上と決まっているのです。

そして、この視神経の上下は左右決定遺伝子pitx2の存在の有無に関係なく決まっていることがわかってきました。

つまり、他の遺伝子によってこの視交叉の違いが生じているということになります。

視交叉に関しては面白い個体がいます。ボウズガレイです。

ボウズガレイは、進化的に古い種類の生体で、こいつの視交叉はランダムに決まるということがわかっており、その結果顔の向きも左右がランダムに決まるという非常に興味深いことが言われています。

たっきー

ということは、視交叉の違いによって左右が決まっているということか

まとめると・・・

1:視交叉がランダムで顔の左右非対称性は生じない(メダカなど)

2:視交叉がランダムで、顔の左右非対称性もランダムに生じる(ボウズガレイ)

3:視交叉が決まっていて、顔の左右非対称性も決まっている(ヒラメやカレイ)

ヒラメやカレイは視交叉の上下をあらかじめ決めることで、顔面崩壊の際に左に向くか右に向くかを決定しているということです。

おまけ:なぜこんな研究をしているの?

ヒラメやカレイの左右非対称性の決定についてお話ししましたが、なぜこんな研究がされているのでしょう?

おっくん

ヒラメやカレイは養殖をするのが難しいんだって

たっきー

ヒラメって普通に養殖してるイメージやけど・・

おっくん

そうなんだけど、養殖の条件下だとうまく左右が決まらなかったり、色素に異常が生じたり難しいらしい。

たっきー

ということは、左右の決定には環境的な要因も関係しているってことやね。

この辺りの研究が進むことで、ヒラメやカレイの養殖技術も飛躍的に向上していきそうですね。

ヒラメがもっとお手軽な価格で食べられる日が来るかもしれません!

ヒラメ大好きたっきーはこの研究を応援しております!