ゲノム編集ベビーが誕生する可能性とその問題点について

今回は、中国で問題になったゲノム編集ベビーについて、技術的にどこまで可能になっているのか、またどのような問題が生じるのかについて解説していきます。

以前、人と猿のキメラ胚作成に関する研究の話を紹介しましたが、そこでも倫理的な問題点が話題となりました。

生物学の進歩にとって切っても切り離せない倫理観ですが、今回ご紹介するゲノム編集ベビーに関しても考えていきたいと思います。

たっきー

ゲノム編集なんてなんだか超怖そうやな

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ゲノム編集ベビーが誕生する可能性とその問題点

ゲノム編集技術について

ゲノム編集技術については、食品のゲノム編集技術についての記事をご覧ください。

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ゲノム編集とはCRISPR-Cas9(clustered regularly interspaced short palindromic repeats / CRISPR associated proteins)という技術を使った方法で実施します。

この技術は公表されてすぐにノーベル賞を受賞したほど素晴らしい技術で、現在ではさまざまな分野で利用されています。

DNA二本鎖を切断してゲノムの任意の場所を排除したり、別の遺伝子に置換したり、別の遺伝子を挿入したりする技術で、元々は細菌などにウイルスが感染し遺伝子内に侵入した際の排除に利用されていた自然界に存在する適応免疫の一つです。

この技術の登場以来、実験動物の遺伝子操作が急速に進歩しました。

実験手法としては簡単で、人間のゲノム編集をしようと思えば人工授精ができるクリニックであればどこでもできるほどのレベルです。

ゲノム編集でできること

ゲノム編集において、最も簡単にできることは遺伝子の破壊です。

ゲノム編集や遺伝子操作などと聞くと、遺伝子を編集して何かの能力を強化したり新しい遺伝子を入れて今までになかった能力を獲得するといったイメージを持ちがちですが、実はこれは非常に困難です。

現実には、目的の遺伝子を破壊することでストッパーを外したり、悪い生理現象を除去したりといったことしかできません。

大腸菌などの大量に増えるような生物であれば、低い確率で成功する遺伝子導入などであっても何百万、何千万といる個体の一部が成功すればいいわけですが、人間は月に一回排卵される卵でゲノム編集をする必要があり、成功する確率の低いゲノム編集をすることは現実的ではありません。

仮に将来卵を大量に培養できる技術などができれば話は別ですが、現状そんなことはあり得ません。

つまり、現在の技術ではゲノム編集ベビーを作るということは何かの遺伝子を破壊した人間を作ることと同義になります。

ゲノム編集ベビーの誕生による問題点

さて、ゲノム編集技術について説明したところでなぜゲノム編集人間を作ることに関して問題なのかを話します。

倫理的に良くないなどという人は大勢いますが、これに関してはもちろんその通りだとは思いますが、ここでは生物学的にもゲノム編集はまずいと思う理由を説明したいと思います。

先ほども書きましたが、人間においてゲノム編集をするとは特定の遺伝子を破壊することになります。

そして、この特定の遺伝子を破壊された人間が成長したとしましょう。

成人になり、他の人と同様、子供を産み家庭を持ちます。

ここが問題です。

ゲノム編集(ここでは遺伝子Aを破壊した)をした人間のDNAは遺伝子Aが欠損している状態になっています。

もちろん生殖細胞のDNAも遺伝子Aが欠損しており、その子供は遺伝子Aを欠損した状態で生まれてきます。

このようにゲノム編集した人間では、そのゲノム編集の内容が次世代に引き継がれることになります。

この次世代に引き継がれることの危険性を例をあげて説明しましょう。

仮にコロナウイルスに感染しないようにするために遺伝子Bを破壊すればいいということがわかったとします。

ある国Zではコロナウイルスに感染しないよう全国民の遺伝子Bを破壊する法律ができたとします。

そうすると、国Zでは代々遺伝子Bがなくなることになります。

そんな中、新たなウイルスが出現します。そしてこのウイルスは遺伝子Bがないことによって致死率100%となってしまう恐ろしいウイルスです。

この時、遺伝子Bを欠損した国Zではこのウイルスに対抗する術がなく国民全員が死に絶えてしまうことになります。

それじゃあ遺伝子Bをゲノム編集で組み込んでやればいいじゃないかと思った方もいるかもしれません。

しかし、上述したようにゲノム編集は破壊することは簡単ですが、置換したり挿入したりすることは非常に困難なのです。

これはかなり大袈裟な話をしましたが、このような深刻な内容でなくともアレルギーが出やすくなるとか成人病の罹患率が高くなってしまうとか、今はまだわかっていない悪影響なども出てくるかもしれません。

こういったことから、次世代に引き継がれるゲノム編集ベビーを作ることは問題だということがお分かりいただけたかと思います。

問題のない人間のゲノム編集

ゲノム編集ベビーが良くないという話をしましたが、問題のないゲノム編集もあります。

次世代に引き継がれないゲノム編集です。

どういうことかというと、ゲノム編集ベビーは卵にゲノム編集を施すため、その卵が分裂して成長した人間の全ての細胞がゲノム編集されていることになりますが、成人した人間の一部の細胞のゲノムを編集したとしても生殖細胞は編集されていないことになります。

例えば、先天的に肝臓のとある機能が過剰に働いてしまうといった疾患を持つ人がいたとして、その人の肝臓に細胞を打ち込んだり、ウイルスをベクターとして目的の遺伝子を打ち込んだりすることは問題ないとされています。

まとめ

今回はゲノム編集についての考えを書きました。

今後も人類の技術の進歩は止まることを知りません。

そういった中で取り返しのつかない状況にならないようにするためにも、それぞれの技術に関してはより慎重に精査していく必要がありますし、倫理観も進歩していく必要があると思います。

結構真面目な話になりましたが、今後も最新の生物学について記事を書いていきますのでたまーに覗いてみてください!