【研究室訪問】不死!! プラナリアの研究者 梅園良彦教授に会ってきた ! 【兵庫県立大学】

みなさんプラナリアという生き物をご存知ですか?プラナリアは日本各地の川の上流、水質の綺麗な場所にすむ小型の生き物で、可愛らしい目が特徴です。

2種類のプラナリア(左:ナミウズムシ 右:カズメウズムシ)

このプラナリアの特徴は、なんといっても切っても切っても死なないこと。

プラナリアは「Immportal under the edge of knife」つまり「刃物の元では不死身」と言われる通り、切っても再生を繰り返して増殖するという再生の王様のような生き物なのです。

そんなプラナリアの特徴に着目した再生の研究をしている兵庫県立大学の梅園良彦教授に話を伺ってきました。

不死!! プラナリアの研究者 梅園良彦教授に会ってきた !

たっきー

先生の研究室ではどのようなことを研究されているのでしょうか?

梅園教授:我々の研究室では体長1cmほどのプラナリア(ナミウズムシ)という生き物を使って研究しています。

プラナリアは再生能力が非常に高く、この高い再生能力に着目してプラナリアをモデル動物として利用した再生研究を行なっています。

たっきー

再生といえばヤモリの尻尾が再生するなどが有名ですが、プラナリアとなると一般の方には馴染みがないと思いますので、まずはプラナリアの再生能力について簡単に教えてください。

まずはこちらをご覧ください。

プラナリアの再生能力

図1:プラナリアを切断後、1週間の再生を撮影したもの。切断時にはなかった目のようなものが1週間後には形成されている

ナミウズムシをこのように7等分に切断しています。

我々人間であればあっという間に死んでしまいますよね?

しかし、プラナリアは非常に再生能力が高い生き物なので、1週間も経つと全ての断片が再生して写真のような一個体となっています。

よく見ると、それぞれの断片に目のようなものがあるのがわかると思いますが、もともと目がなかった部分からも目まで再生するということです。

もう少し詳しく再生の仕組みを説明するために、体の内部で何が起こっているのかについてもご説明しましょう。

図2:プラナリアの体の構造を模式図にした。組織としては目、脳(青)、咽頭(緑)、幹細胞(赤)を示している。

プラナリアも我々と同じように体にはいろんな組織が存在します。

頭部には目や脳がありますし、体の真ん中あたりには人間の口のような部分である咽頭があったりします。

そして、再生においてもっとも重要なものが、図の赤丸で示している幹細胞(分化多能性幹細胞)です。

これが再生する上での種になる細胞です。

最近は再生医療に関するニュースでもよく取り上げられて有名になっているES細胞iPS細胞などはご存知だと思いますが、プラナリアの幹細胞もこれらと同じようにいろんな細胞に分化することができる能力を持っています。

プラナリアの持つ全細胞の約25%が幹細胞だと言われていて、この細胞がたくさんあることで高い再生能力を獲得していると考えられています。

図2では咽頭の後ろ側(尾部側)を切断した際の再生様式を示しています。まず、切断後に何が起こるのかというと、我々人間と同じように傷を塞ぐことから始まります。

傷が塞がるというのは非常に大事です。傷が塞がった後に何が起きるのかというと、切断面に再生芽(Blastema)というものができます

この再生芽が、再生できる生き物と再生できない生き物の間での大きな違いです。

再生ができない我々人間は、例えば腕を切り落とされたとしても、その切断面に再生芽は形成されません。

一方、プラナリアをはじめとした再生できる生物では、切断面に再生芽を形成し、そこを起点として再生を始めるということになります。

従って、再生の研究をする上でまず調べなければいけないのは、この再生芽がどうやって形成されているのかということです。この仕組みを遺伝子レベルで解明しようというのが、いわゆる再生研究の大きなテーマの一つになります。

プラナリアはどうやって再生芽を形成するのかというと、幹細胞を使って再生芽を形成します。

この再生芽の作り方にもルールがあって、尾側の切断面には尾を作るための再生芽ができて、頭側の切断面には頭側を作るための再生芽ができます。

まさに棒磁石を折ってもN側はN極になってS側がS極になるようなイメージです。

図3 棒磁石はどこで切っても片側がN極、もう一方はS極になる

この磁石のような特性から、100年以上前にイギリスの遺伝学者トーマス・ハント・モーガンがこの再生現象を「極性」と名付けました。

今回説明しているプラナリアでは、頭側と尾側の極性なので、「頭尾極性」もしくは「前後極性」と言います。

最近ではこの頭尾極性のメカニズムに関わる遺伝子がすでに同定されています。例えば、ある特定の遺伝子を破壊してしまうと本来頭になる切断面が尾として再生してしまったり(頭がない個体)、逆に別の遺伝子を破壊すると両側が頭(頭が2つ)の個体に再生してしまったりと、頭尾極性を遺伝子レベルで操作することが可能になっています。

実際に我々の研究室でもそのような実験が可能です。

左右や上下の極性

たっきー

左右の極性や上下の極性に関してもわかっているんですか?

左右に関しては実はまだわかっていません。大きな研究課題の一つと言えます。

上下極性に関しては、背側腹側の極性ということになりますが、こちらに関しては関連遺伝子が明らかになっていて、特定の遺伝子が背側と腹側を決定することがわかっています。

その遺伝子を破壊すると背側なのに腹側に運命転換するなどのことがわかっています。

おっくん

縦に割かれて頭が二つになっている写真を見たことがあるのですが、あそこには左右の再生のメカニズムが関係しているということですか?

そのようなプラナリアを作ることはできます。頭を半分に切って左右の傷口がくっつかないようにしておくと、左の傷口からは右側が、右の傷口からは左側が再生します。

必ず正しく再生されるので、細胞は左右を認識しているはずですが、私の知る限りその決定遺伝子はまだわかっていません。

再生と繁殖の関係

たっきー

プラナリアは切断されると全てが再生するわけですが、再生を繁殖の方法として利用することもできますよね?

その通りです。プラナリアの再生は繁殖にとってもすごく重要な役割を果たします

こちらの図に再生と繁殖の関係性を示しました。

図4 ナミウズムシの再生能力と無性生殖のサイクル。切断された部分は1週間ほどで小さな一個体に再生することができます。

プラナリアは自分で自分の体を切断します。これを自切と言います。

ほとんどの場合、咽頭の後ろの部分で自切を行います。自切をすることで、もともと一個体だったものが、切れた1つの個体と尾側の断片の2断片になります。

そして頭部、尾部ともに再生を開始します。再生が完了したら1匹だった個体が2匹になるということです。夏場にはこのような自切による繁殖をします。

これはオスメスや卵を介さない繁殖であり無性生殖と言います。自然界でも特に夏場ではこの自切による無性生殖を使って増えています。

私たちの研究室のプラナリアも切断による無性生殖で増えた個体を使っています。元々はたった1匹のプラナリアからスタートしていて今では何万匹というプラナリアを飼育していて、20年ほど生き続けているということになりますね。

たっきー

20年間同じ個体を使っているわけですが、細胞の寿命みたいなものはないんですか?通常は細胞分裂の際にテロメアが縮小するなどの現象、細胞の老化が起きると思いますが、プラナリアではそれが起きないのでしょうか?

事実ベースでお話しすると、我々の研究室では20年前の1匹の個体から分裂して生存し続けているので、この系統で言えばずっと生存し続けているので、寿命があるのかと言われると同じ個体の遺伝子としての寿命という概念はないと思います。

細胞がどれだけ生き残っているかという点は非常に面白い点で、例えば20年前に幹細胞は自分が分裂して1匹が2匹になっていって、20年前にいた幹細胞そのものが今の個体の中で生き残っているかというととても不思議で、どちらかはわからないです。

入れ替わっているとは思いますけれども、もし20年前の幹細胞が生き残っていたとすれば細胞としての寿命がないということになります。

テロメアについては研究がされていて、特にプラナリアの幹細胞ではテロメアを短くしないようにテロメラーゼの活性が高いということがわかっています。

切断後の再生でも体のプロポーションは保たれる

先述したとおり、プラナリアはどれだけ小さく切断しても体全体が再生できますが、大きさは小さい状態で再生します。

小さい断片からは小さなプラナリアが再生し、その小さなプラナリアが食事をすることで成長し、元の大きさに戻ることになります。

またこの際、再生したばかりの小さな個体も元の大きな個体も体のプロポーションは同じという面白い特徴があります。再生3日目の尾部断片を使って具体的な例をご説明しようと思います。

左上:切断3日後のプラナリアの脳の原基と咽頭の原基ができているのがわかる 
左下:脳と咽頭の原基の位置を測定し、原基の位置が前後軸のどの割合に位置するのかを示す
右下:縦軸が断片の長さ、横軸が断片の長さに他する脳と咽頭の位置の割合を示す

プラナリアの尾部断片の作成は500μm〜2mm以上まで4倍以上の大きさの範囲で調整が可能です。

大きさの違う尾部断片を作成して、再生3日後に脳と咽頭の位置がどこに存在するのかを調べました。

左下の図を見ると脳の位置も咽頭の位置も綺麗な一次関数になっていて正比例の関係にあることがわかると思います。

右下の図を見ると脳は前から17.3%の位置に咽頭は前から44.0%の位置に綺麗に位置していることがわかります。

この現象には、何か重要な遺伝子が関わっているに違いないと考えられます。色々と調べてみると、これに関わる重要な遺伝子が見つかりました。

これがMekk1という遺伝子です。この遺伝子が咽頭の位置を44%の位置に決定するのじ重要な役割を果たしています。実際にこの遺伝子を破壊してやるとどうなるか。

Mekk1が再生時の体のプロポーション維持を担う

左図:通常の個体(上)とMekk1をRNAiで阻害した個体(下)Mekk1は阻害すると咽頭の位置がずれていることがわかる。
右図:咽頭の位置をグラフに表したもの。Mekk1を阻害すると脳の位置は変わらないが、咽頭の位置がかなり頭側に移動している。

Mekk1を阻害すると、咽頭の再生する位置が頭側にずれることがわかりました。

たっきー

Mekk1はどのようなメカニズムで咽頭の再生する位置を調整しているのでしょうか?

再生する際には、前側が再生するシグナル経路と尾側が再生するためのシグナル経路もあって、Mekk1はこの前側と尾側のバランスを調整しているということがわかりました。

前側のシグナルに対しては、働いて下さいね(再生してくださいね)と促進してるのに対して後ろのシグナルに対してはそれ以上働かないでくださいねと阻害している

一つのタンパク質で両方の役割を果たしている。これによって前後の正しいバランスが決まっている。再生における体のプロポーションをこのMekk1が作っているということです。

たっきー

Mekk1を阻害してやると前のシグナルが働きにくくなり、後ろのシグナルが強くなるため、咽頭が前よりになるということですね。

そういうことになります。私たちの口は前にありますよね?おそらくプラナリアの祖先も元々は頭側に口があって、ある時からMekk1が働くようになって、口が体の中央あたりに移ることになった。これが生存する上で効率が良く、保存されていったのでしょう。

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