月で植物を育てることはできるのか?
地球の資源が限られていると騒がれて久しいですが、人類が宇宙に移住する上で酸素、水、食べ物の確保は非常に重要です。
そして宇宙に移住する上で最も近い星は「月」ですね。
この月で食べ物の確保は可能なのか?今回は月の土で植物は育つのか検証した実験がありましたのでご紹介します。
酸素と水はどうすんねん!とか言ったらあきまへんで〜
参考文献
P Anna et al., 2022. Plants grown in Apollo lunar regolith present stress-associated transcriptomes that inform prospects for lunar exploration.
月で植物を育てることはできるのか?
月に移住すると言うような話は実はプロジェクトとしてあったりしますが、月などの地球外の星の物質がどれほど安全なのかわかっていない部分が多いのが現状です。
未知のウイルスなんかが入っている可能性だってあるわけです。
そこで、月の土(正確にはレゴリス)の安全性を確かめるために利用されたのが植物で、植物に月の土を塗りたくるなど月の土の安全性評価が進められてきました。
その流れで調べられたのが今回の研究”Plants grown in Apollo lunar regolith present stress-associated transcriptomes that inform prospects for lunar exploration”です。
今回の実験で使用したレゴリス
今回の実験ではアポロ11号、12号、17号が地球に持って帰ってきたレゴリスを使って植物の種(シロイヌナズナ)を植えてみるということをしました。
月の土に植物の種植えてみたっていうYouTubeの動画できそうやな
この3種類のレゴリスはそれぞれ別の場所で取ってこられたもので、
- アポロ11号のレゴリス:月の表面から採取したレゴリス
- アポロ12号のレゴリス:亜成熟(月の表面から少し掘った場所)のレゴリス
- アポロ17号のレゴリス:月の表面に露出されていないより深い位置のレゴリス
以上のような特徴を持っています。
この採取する場所によって何が違うんだ?と思ったあなたは鋭い!
月の表面にあるレゴリスというのは太陽風の影響を受けて、レゴリスの成分の一つであるFe(鉄)が通常地球ではFe2+として存在するのに対してFe2+という還元された状態に変化することがわかっています。
その他にも、物質としての鉄も太陽風にさらされてnmスケールの超小さい状態に風化していくことも知られています。
逆に深いところから取ってきたレゴリスはこのような影響を受けていないと考えられるわけです。
実験ではこの3つに加えてControlとして人工的にレゴリスを模して作った擬似レゴリス(成分を同じにしたもの)も使用しました。
レゴリスに種を植えると・・・
それでは4種類の土(レゴリス)にシロイヌナズナの種を植えた際の実験結果を見てみましょう。
お!どの土でも芽が出てますやん
どの土を使ったシロイヌナズナも発芽していますね。
しかし、根っこを見てみると様子がおかしいことがわかります。
擬似レゴリスに植えたシロイヌナズナでは根っこが長く伸びているのに対して、月のレゴリスではどれも根っこが短いのがわかると思います。
どれも植えてからの期間などの環境は同じです。
ここからさらに育てていくとどうでしょう?
擬似レゴリスでは生き生きと葉っぱが成長している一方で、月のレゴリスでは成長が悪かったり、ひどいものではほぼ枯れているものもあります。
アポロ11号のレゴリスは特にひどいな
土の養分の問題ではないか?考えられる方もいるかもしれませんが、水やりにはMS Vitamin Solutionという植物の成長に必須な成分を含んだ液体を使用しているため、栄養分の不足が成長を阻害する原因ではないということを付け加えておきます。
トランスクリプトームやってみた
なんとこの研究ではさらに分子生物学をやってきた方ならお馴染みのトランスクリプトームを実施しています。
トランスクリプトームとは、特定のタイミングの細胞内の全てのmRNAを調べる技術のことで、細胞の異常などを遺伝子発現レベルで調べるのに利用される技術です。
すごくコストのかかる実験なのに、さすが宇宙関連の研究だね
トランスクリプトームの実験結果がこちら
乾燥ストレス関連の遺伝子やROSストレス(酸化ストレス)関連の遺伝子が多く発現していることがわかりました。
コレに関しては疑問もあって、こんなに弱ってる植物の遺伝子調べてもストレス関連の遺伝子が出てても不思議じゃないよなと
そりゃそうやな笑
もうちょっと早い段階でこの実験をやってほしかったよね
レゴリスは植物の発育に向いていない
以上の実験結果から筆者らは月のレゴリスの還元状態の物質によって、植物の発育に重要な酸性状態の土になっていないことが今回の結果に現れたのではないかと考察しています。
今回の研究で面白かったのは、レゴリスをとった場所の違いで発育に影響があるという点だったね。もっと追加の実験はしてもらいたいね。
人間の宇宙進出はまだまだ先になりそうです・・・。