タバコをやめると太るのは食べ過ぎが原因ではない?

「タバコをやめると口が寂しくなって食べ過ぎてしまうから太るよね〜。」とか

「タバコをやめるとご飯が美味しくなっていっぱい食べちゃうんだよね〜。」

なんていう会話を聞いたことがないでしょうか?

禁煙をしたことがある人なら、誰でもこのような会話をしたことがあるはず・・・。

斯く言う私も禁煙をして太った際にはこのようなことを話していました汗

しかし、最近の研究でどうやら食べ過ぎだけが太る原因ではなく、根本的に体が太りやすく変化するという衝撃の事実が明らかとなってきましたので、今回はそんな”禁煙”と”体質の変化”に関するお話をしようかと思います。

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参考文献

L Fluhr et al., 2021. Gut microbiota modulates weight gain in mice after discontinued smoke exposure.

https://www.nature.com/articles/s41586-021-04194-8

タバコをやめると太る

タバコをやめると太るとはよく言われますが、そもそも本当に太るのでしょうか?

この問いに関しては既に実験がされていて、禁煙してから6ヶ月〜12ヶ月で平均4.5kg体重が増加するということがわかっています。

さらに、この内13%の人は一年以内に10kg以上も太ってしまうということも明らかとなっているそう。

たっきー

やっぱり禁煙したら太るんやね

禁煙と腸内細菌の関係性

これまでの研究で禁煙すると太るということはわかっており、研究者はこの原因として腸内細菌に着目しました。

腸内細菌は体質に大きな影響を及ぼす重要な存在であり、サイエンスラジオでもよく取り上げています。

喫煙においても腸内細菌がなんらかの働きをしているのでは?と考えたわけです。

禁煙と腸内細菌叢の関係を確かめる実験系

今回の研究における実験方法を紹介しましょう。

今回の実験では下記4つの群のマウスを使って行われました。

  1. non-smoking群(煙を吸わさない)
  2. smoking群 (タバコの煙を吸わせる)
  3. non-smoking + 抗生物質群(煙を吸わさず、抗生物質を投与)
  4. smoking + 抗生物質群 (タバコの煙を吸わせて抗生物質を投与)

それぞれの群で21日間生活をさせ、21日目から禁煙を開始し、合計5週間体重の変化を測定します。

抗生物質を投与する理由としては、抗生物質によって腸内細菌を死滅させ、腸内細菌による体重変化の影響を確かめるためです。

smoking群は禁煙してから急激に体重が増加する

実験の結果、タバコを吸わせていない群(上記1と3)では実験開始から緩やかに体重が増加した一方、喫煙をした群(上記2と4)では喫煙中は体重が増加せず、禁煙した直後から急激に体重が増加することが明らかとなりました。

たっきー

食べている餌の量が変わっていることはないの?

おっくん

食べている量に違いがないことは確かめているよ

しかし抗生物質による面白い現象も見られました。

喫煙をさせたマウスで抗生物質を投与した群では、そうでない群と比較して禁煙後の急激な体重変化が緩やかになることが明らかとなったのです。

今回の実験で分かったことは以下の4点です。

  1. タバコを吸っていない群では徐々に体重が増加していく
  2. タバコを吸っていない群に抗生物質を投与しても体重変化に影響はない
  3. タバコを吸っている群では喫煙中には体重が増加せず、禁煙してから急激に体重が増加する
  4. タバコを吸っている群に抗生物質を投与すると、禁煙後の体重増加が緩やかになる

このことから、どうやらタバコを吸った際に腸内細菌叢が変化していることが考えられます。

喫煙すると腸内細菌叢が変化する

喫煙すると腸内細菌に変化がありそうだということがわかりました。

そこで、実際に喫煙していないマウスと喫煙しているマウスの腸内細菌叢を調べたところ、腸内細菌叢に明らかな違いがあるということがわかりました。

そして、この腸内細菌叢の違いは禁煙をしても元に戻らないということも明らかになります。

抗生物質を投与すると腸内細菌叢はリセットされるため、上記の実験のような変化が起きることも納得できます。

腸内細菌叢の変化はニコチンによるものではない

タバコによる影響があるということがわかったため、原因物質を調べるためニコチンに着目しました。

ニコチンをマウスに食べさせるという実験をした結果、タバコのような体重変化は起きないことがわかりました。

また、腸内細菌叢に関しても喫煙群や非喫煙群とは違った腸内細菌叢を示すことが明らかになりました。

このことからニコチンが腸内細菌叢の変化に直接影響しているいうことはなさそうです。

腸内細菌の移植

喫煙をしている時の腸内細菌叢が太りやすい体質を作っているということであれば、その腸内細菌を非喫煙のマウスに移植してやれば太りやすくなるのではないか?と考えられます。

この仮説を実証すべく、腸内細菌の移植をする実験を試みました。

たっきー

腸内細菌の移植最近流行ってますねー

おっくん

腸内細菌の話をするとき、うんこの移植は切っても切り離せないよね

非喫煙群に喫煙マウスの腸内細菌を移植した結果、なんと体重が優位に増加するようになったのです。

たっきー

喫煙者の腸内細菌はタバコを吸っていない状態やと宿主を太らせるんやな

禁煙中に起きている体の変化

喫煙による腸内細菌叢の変化が体にどんな影響を与えているのでしょうか?

この疑問に答えるため、まずは排泄するカロリーを調べるため糞中のカロリーを調べる実験を行いました。

その結果、喫煙中には糞中のカロリーに変化はなかった一方で、禁煙を始めるとカロリーが優位に減少するということがわかりました。

つまり、禁煙をすると食事から吸収するカロリー量が増えるということです。

なぜこのようなことが起きるのかを調べるため血漿中の成分を調べたところ、7つの代謝経路に変化があることがわかり、その中でも特にジメチルグリシン(DMG)とNーアセチルグリシン(ACG)が大きく関わっているのではないかと考察しています。

ジメチルグリシンによる影響

ジメチルグリシンが直接的な影響を与えているのかどうかを調べるため、これを直接投与する実験をしました。

前述の実験で、喫煙と抗生物質を投与した群では禁煙後の体重増加が緩やかになるという結果が見られましたが、ジメチルグリシンを投与するとなんと顕著な体重の増加が見られました。

つまり、喫煙後の禁煙による体重増加にはこのジメチルグリシンが大きく関わっている可能性が示唆されたと言うことです。

それならば、ジメチルグリシンを与えなければ体重は増加しないのかということで、ジメチルグリシンの材料になる物質を含まない餌を与えたところ、なんと喫煙群でも禁煙後の急激な体重増加は起きなかったのです。

逆にジメチルグリシンを食べさせることで糞中のカロリーが減ることも確認できたことから、やはりジメチルグリシンの血中濃度が高まることでカロリーの吸収が促進されているということが示されました。

N-アセチルグリシンによる影響

禁煙中にはジメチルグリシンが増加し、これが体重増加に影響を与えていることが明らかになりましたが、逆にN-アセチルグリシンという物質の血中濃度は減少するということも明らかになっていました。

ここまで読んできた方ならお分かりかと思いますが、それじゃあN-アセチルグリシンを食べさせてやれば体重が増えなくなるんじゃないのか!?と考えられるわけです。

まさにこの実験をしたところ、N-アセチルグリシンを食べさせることで喫煙後に禁煙をした際の急激な体重増加が抑えられるという結果が得られました。

そしてこのN-アセチルグリシンは喫煙によって減少しますが、抗生物質を投与することで正常な値に戻るということも明らかにしており、腸内細菌がN-アセチルグリシンの量をコントロールしているのではないかと考えられます。

さらに、ジメチルグリシンを多く与えてもN-アセチルグリシンの量は低下しました。

少なくとも腸内細菌、ジメチルグリシン、N-アセチルグリシンがそれぞれ関係しあっているということが示されたわけです。

体の中では細胞レベルで何が起きているのか?

ここまで腸内細菌や分子レベルでの体の変化を明らかとしてきました。

それでは細胞レベルでの変化はあるのでしょうか?

実験の結果、ジメチルグリシンを投与することで脂肪細胞の単球の増加が見られ、N-アセチルグリシンを投与することで脂肪を増やすある種のマクロファージの増加が認められました。

このように喫煙によって細胞レベルでも体の変化が起きているということも示されました。

喫煙による体内の変化の総まとめ

それではここまでをおさらいしましょう。

喫煙によって起こる体の変化(太りやすさ)は下記のように考えることができそうです。

  1. 喫煙によって腸内細菌叢が変化する
  2. 禁煙によってさらに腸内細菌叢が変化する
  3. 腸内細菌叢の変化によって代謝物(DMG、ACG)の量が変化する
  4. 代謝物(DMG、ACG)の量の変化が、ある種の免疫細胞の量を変化させる
  5. ある種の免疫細胞の量の変化によって脂肪を増やすことになり体重が増加する

今回の研究によって、喫煙〜禁煙〜太るまでのメカニズムの大枠が明らかとなったのです。

人ではどうなのか?

今回の研究では人の腸内細菌についても検証しています。

人においても喫煙者と非喫煙者では腸内細菌叢が違うということがわかりました。

また、喫煙者の方が血中DMG濃度も高いということも明らかにしています。

このことからマウスでの実験はおそらく人間にも似たようなことが起きているだろうということが示せたわけです。

まとめ

いかがでしたでしょうか

今回は喫煙者が禁煙することで太る理由は、暴飲暴食だけではなかったという研究を解説しました。

喫煙によって腸内細菌が変化し、その結果太りやすい体質になってしまうなんて腸内細菌は本当に興味深いですね。

禁煙中に太ってしまうという方は、ぜひ非喫煙者の奥さんの腸内細菌を移植してみてはいかがでしょうか?

ではまた〜