ほくろと癌は実は同じものだった【その違いとは】

みなさん、ほくろはありますでしょうか?

「俺にはほくろはない!」という方はいないのではないかと思います。

大小様々なほくろがありますが、実は皮膚癌(メラノーマ)とほくろが同じものであるということをご存知でしょうか?

今回はほくろと皮膚癌が同じという話と、一体何の違いがほくろと皮膚癌を分けるのかご紹介したいと思います。

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ほくろが発生するメカニズム

まずは基礎知識としてほくろの発生するメカニズムについて詳しく説明していきます。

我々の皮膚にはメラノサイトと言う色素細胞が存在します。

このメラノサイトが黒色の色素を多く出すと皮膚が黒くなるというわけです。

日焼けをした際に皮膚が黒くなるのは、このメラノサイトが黒色の色素を多く出すからです。

これによって日差しから皮膚を守る働きをしているんですね。

ほくろというのは、このメラノサイトが一時的に多く分裂したもので途中で分裂が止まることでほくろとしての形になります。

この一時的な細胞分裂はBRAFという遺伝子の600番目のバリン(V600E)がグルタミン酸に変異することによって引き起こされています。

皮膚癌も同じ遺伝子の以上によって生じる

実は皮膚癌(メラノーマ)もこのBRAFの遺伝子の以上によって引き起こされていることがわかっています。

しかし、ほくろでは細胞分裂が途中で止まる一方、皮膚癌(メラノーマ)は、ほくろとは違い無限に増殖して悪さをします。

BRAFの異常というのは多くの癌細胞で一般的な遺伝子の異常で、ほくろでは何かしらの方法で無限増殖することを防いでいると考えられます。

BRAFとは?細胞増殖に関わるMAPKシグナルについて

分子生物学を学んだことのある方ならよくご存知かと思いますが、RAFは細胞分裂を制御しているMAPKシグナルというシグナル経路の一部を担うタンパク質で、このRAFに異常が生じることで、MAPKシグナルが常に活性化することで無限に細胞分裂が繰り返されるということになります。

通常、MAPKシグナルはRASの活性化によりRAFが活性化し、さらにMEKが活性化することでERKが活性化し、細胞分裂に関係する様々な転写因子を活性化させます。

この時、ERKは細胞分裂が起き続けないようにRASにネガティブフィードバックを起こす(活性を止める)ことが知られています。

これにより、細胞分裂が無限に引き起こされる現象を防いでいるわけです。

しかし、RAFに異常が起きた場合にはこのネガティブフィードバックが機能しなくなります。

これにより無限に細胞分裂が起きてしまうということです。

そして今回の話の面白いところは、このRAFの異常はほくろでも起きているのに、ほくろは無限に増え続けることはないという点です。

これについて調べた論文がありましたので、ご紹介しましょう。

ほくろと癌は何が違うのか?

今回紹介する論文の大まかな実験内容としては、ほくろの細胞と皮膚癌(メラノーマ)の細胞を採取し、その細胞で発現している全遺伝子を解読するというものになります。

解析の結果、とあるmicroRNAの量に違いがあることが明らかになりました。

microRNAとは?

microRNAとは、小さなRNAのことでタンパク質を作るための設計図(mRNA)にならないRNAです。

生物の体の基本原理として、セントラルドグマという仕組みが存在します。

これは、DNA→mRNA→タンパク質という流れで、読者のみなさんも高校生物などで習ったことをなんとなく覚えているかと思います。

microRNAの主な役割のなかに、mRNAからタンパク質を合成する過程を阻害するというものがあります。

microRNAがmRNAにくっつくことで、mRNAからタンパク質を作る過程(翻訳)を阻害したり、mRNAを破壊するのです。

ほくろに特別なmicroRNAとは?

microRNAがRNAを阻害する働きを持つということがわかりました。

それではほくろの細胞が持つmicroRNAは一体何をしているのでしょうか?

今回の研究では実際にほくろで多く発現していたmicroRNAを培養したメラノサイトに添加するという実験を行いました。

通常、シャーレで培養されたメラノサイトは分裂を続けますが、なんとこのmicroRNAを添加することで細胞分裂が停止したのです。

通常はメラノサイトは増殖を続ける

ほくろのmicroRNAを入れると分裂が止まる

このことから今回ほくろで多く見つかったmicroRNAにはメラノサイトの分裂を抑制する働きがあるということがわかりました。

それではこのmicroRNAがどのRNAを阻害しているのでしょうか?

ほくろが持つmicroRNAが阻害するRNAとは?

実験の結果、AURKBという遺伝子の存在が浮かび上がってきました。

AURKBは細胞分裂に関わっている遺伝子です。

細胞が分裂する際にはM期というタイミングで有糸分裂を起こします。

この時に2倍に増殖したDNAが2つに別れることで細胞分裂を起こしますが、この2つのDNAを両極に引っ張る紐の部分(微小管)に結合するのがAURKBです。

オレンジの紐の部分にAURKBが結合する

microRNAはこのAURKBの発現に影響を与えるということがわかりました。

まとめると、microRNAが存在することでAURKBの働きを抑え、その結果細胞分裂が抑えられることでほくろは無限増殖を起こさないということです。

このメカニズムからも分かるとおり、DNAが2倍になった後の分裂の過程を阻害するということで、この阻害機構はS期(DNAの複製の時期)を超えています。

そのため、ほくろの細胞では一つの細胞あたりのDNAが2倍となっており、ほくろの細胞は多核です。

恐ろしいことにこのAURKBを不活化するメカニズムは可逆的であり、AURKBの活性が元に戻るような環境になると再び細胞は増殖を繰り返すということも明らかになっています。

ほくろが癌化する可能性もあるということです。

皮膚癌ではなぜこのmicroRNAが発現していないのか?

ここで疑問なのは、ほくろでは今回発見されたmicroRNAが多く発現しているのに、皮膚癌(メラノーマ)では発現していないという点。

パッと思いつく理由としては、RAFの異常な活性化によってmicroRNAが転写されるなどが考えられます。

しかし、今回の論文の考察としてはmicroRNAがRAFの下流で発現が起きるのではなく、メラノサイトの周りの環境や細胞の分化状態の違いによって作られるという微妙な言及がされています。

明確な仕組みは掴めませんが、少なくともMAPKシグナルのなかでmicroRNAの発現が調整されているというわけではなさそうです。

まとめ

今回の論文の結果から、AURKBの働きを抑制することができれば皮膚癌(メラノーマ)の無限分裂を抑制できると考えられます。

実際にAURKBの阻害剤をメラノーマに添加すると、細胞の分裂が抑制できたという結果も出ています。

AURKBは他のがん細胞にも関係している因子であるため、今回の研究結果ががん治療の一助になる可能性もありますね。

今回面白かったのは、ほくろと癌は実は同じ遺伝子の変異によって生じていて、その違いがたった一つの小さなmicroRNAの発現の違いによるものだということ。

生物はこのような繊細なメカニズムによってがん細胞などから身を守っているというのは非常に神秘的で面白いですね。

ちなみに、ほくろが癌に変異するのは日本人に多いそうですよ!

ではまた〜

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