小学6年生がカブトムシ界の常識を覆す論文を出した
今回は、最近話題になった小学6年生が著者の論文
“An introduced host plant alters circadian activity patterns of a rhinoceros beetle”
訳:外来植物がカブトムシの概日活性を変える
について解説していこうと思います!
小学生が論文出すってそんなことあんの!?
すごいよね。今回は、小学生が著者のカブトムシに関する研究についての内容と面白い点や課題点など理学博士の僕が解説していくよ。
小学6年生がカブトムシ界の常識を覆す論文を出した
近所のクヌギの木がなくなってカブトムシが取れなくなったのがきっかけ
今回の主役でもある小学6年生の柴田亮くんは、カブトムシが大好きで、近所のクヌギの木にカブトムシを見によく通っていたそう。
しかし、そのクヌギの木の雑木林が伐採されてしまい、カブトムシが見れなくなってしまいました。
そんなある日、家の庭にあるシマトネリコの木には昼間にもかかわらずカブトムシがよく止まっているということに気づきます。
この理由について疑問に思い、2年間の夏休みをかけてカブトムシの観察を開始しました。
のちにこの観察の結果を小島講師に提供し、今回発表された論文を書くに至ります。
今回の主役はカブトムシとシマトネリコ
カブトムシはみなさんご存知、日本原産の男子はみんな大好きカブトムシです。
シマトネリコとは、園芸用に海外から日本に輸入された台湾や東南アジア原産の外来植物です。
カブトムシを探すときは雑木林に入って探すよね
クヌギの木に止まってるイメージやわ
そうそう。一般的には、カミキリムシとか他の虫がクヌギの木をかじって、そこから出た樹液をカブトムシが食べにくるイメージ。
そんな共同作業があったんや
他にもボクトウガの幼虫が木を掘ってそこからも樹液が出てくるなどもあるよ
カブトムシが樹液に集まってくるのは夜だということはみなさんよくご存知だと思います。
実際にこれについての研究もされていて、19時頃からカブトムシが集まり出して、22時ピーク、3時〜6時にかけて寝床に帰っていくと報告されています。
ちなみに寝床とはどこかというと、樹液のでている木の周辺の木の上部。樹冠と呼ばれる葉が生い茂っている場所で昼間は隠れています。
こんな通説がある中、今回の論文の著者である柴田亮くんは、自宅の庭にあるシマトネリコの木には昼間でもカブトムシがたくさんいることに気づきました。
これを不思議に思った柴田亮くんは、2年間の夏休みを注いでいろんな時間帯でカブトムシの観察を始めます。
カブトムシの行動に関する新しい発見
今回の2年間(夏休み期間中)のカブトムシ調査では総勢162匹のカブトムシを見つけます。
時間帯ごとの匹数の分布はこちら
注:グラフの12:00と24:00の記入場所は恐らく間違っており、正しくは0:00と12:00だと思われます。
このグラフは横軸が観察した時間、縦軸が匹数を表していて、観察した日ごとにプロットしています。
点線は、ポアゾン回帰分析によって得られた回帰線になります。
このグラフを見ると、カブトムシは夜行性なので、やはり夜の方が多く見つけられることがわかります。
しかし夜に多く見られる一方で、昼にもその約半数ほどが観察できており、筆者らは多くのカブトムシは昼にも樹液を食べにやってきていると言及しています。
ここで思ったのは、クヌギの木でのデータも欲しいということだよね。
Control(対照群)というやつだね。それがないと、本当にシマトネリコの木特異的に昼間にカブトムシが集まりやすいとは言い切れないもんね。
この辺りは僕ら分子生物学の分野と生態学の分野の感覚の違いもあるんだろうね。
とはいえ、普段昼間にカブトムシが頻繁にいるようなことはまずないので、シマトネリコの木には昼間でもカブトムシが多くいるんだろうということは理解できました。
さらに、見つけたカブトムシに印をつけて、2度3度訪れた個体の確認もしています。
この何度も同じ場所を訪れる個体は昼と夜どちらに多く現れるのかを調べてみると、なんと70%は朝や昼に観察されました。
このことからも、シマトネリコの木にはどうやら昼からカブトムシを集める特性があるようです。
疑問点として、木の上の方にいる個体はちゃんと除外しているのか気になったのよね。
クヌギの木でも樹冠を見ればいるわけだからね
実験方法を見てみると、ちゃんと木の上部にいる個体はカウントしていないとあったから、ここはきちんと観察してるなと感心しました。
なぜシマトネリコの木には昼間にカブトムシ?
シマトネリコの木には昼間にも関わらず、多くのカブトムシが現れることが明らかになりました。
それでは、なぜこのような現象が起きるのか?
この点に関しては未だ謎で、論文の中で筆者らは仮説を立てています。
仮説1:エネルギー消費量の違い
通常クヌギの木などで樹液を吸う場合、他の虫達(カミキリムシやボクトウガの幼虫など)が削った表皮から出る樹液を吸うことになります。
しかし、シマトネリコの木には他の虫はあまり寄ってこないため、カブトムシは自分で木の表皮を削り樹液を出す必要があります。
その結果、クヌギの木で樹液を吸うよりもより多くのエネルギーが必要になります。
このエネルギーを補うため、より多くの時間、樹液を吸う行動を取る必要があり、昼間にも集まってくるというのが仮説1になります。
この理論でいくとシマトネリコの木以外でも同じようなことは起きそうだよね。
そうなのよね。だからこの仮説はちょっと薄いかなと思う。
仮説2:特別な揮発性の誘因物質を放出している
2つ目の仮説は、シマトネリコが特別な揮発性の誘因物質を放出しているというもの。
これはかなりイメージしやすいですが、この物質が何なのかは全くわかりません。
これについては、今後も研究が進んでいくことで明らかとなるでしょう。
もし、揮発性のカブトムシ誘因物質が存在するのであれば、夢のカブトムシホイホイが製品化されるかもしれませんね。
今回少し残念だったのは、あれだけ報道されてもカブトムシの分布図の時間の書き間違えに誰も気づかなかった点だね。みんな原著論文読まないんだろうな。
今後、ニュースになるような論文が報道された際には、ぜひみなさんも原著論文に目を通してみてくださいね!
気になる論文がありましたら、リクエストして頂ければ読んでご紹介しますのでお気軽にお問い合わせくださーい。