【細菌の科学】猫から感染?性格変わる?トキソプラズマ感染症
トキソプラズマ感染症という病気をご存知でしょうか?
主に猫などから感染する病原菌が原因の病気で、面白い話がありましたのでご紹介します。
猫から感染?性格変わる?トキソプラズマ感染症
先日、とあるオンラインシンポジウムで、ホンマでっかTVにも出演している池田清彦先生がトキソプラズマ感染症に関する面白い話をしていたのでご紹介したいと思います。
話の内容としては、トキソプラズマという最近が人間の行動を変えてしまうというショッキングな内容です。
具体的には、恐怖心を抑制したり、衝動性を高めたりという話をされていました。
これらの影響に関しては、どちらかというとポジティブな捉え方をされていて、恐怖心が抑制されるから、起業家は感染している人が多いんじゃないかなどの意見もおっしゃっていました。
「普通は感染症といえば、ネガティブなイメージがありますが、いい意味での影響を及ぼすという点が面白かったので、論文などを読んでみましたのでご紹介しますね。」
1990年以降の報告をまとめてみましたが、トキソプラズマと行動の関係性を示す論文は36本中8本ありました。
トキソプラズマとは?
まず、トキソプラズマについて知らない人のために基本情報を説明しておくと、トキソプラズマは猫の腸内で増殖する細菌です。
細菌なので、腸内で増えたあとは、子孫を増やすため別の猫に感染しようとします。
この感染のメカニズムが面白いんです!
まずは、腸内で増えたトキソプラズマがフンと一緒に体外に排出されます。
そして、ネズミがそのフンを食べることで、トキソプラズマはネズミに感染します。
このトキソプラズマに感染したネズミを別の猫が食べることで、元の宿主猫から別の猫に感染することができるという戦略をとっているんです。
トキソプラズマが宿主に及ぼす影響
トキソプラズマはネズミに感染すると、恐怖心を低下させ、危険に対する反応を鈍くするということがわかっています。
つまり、猫などの天敵が来ても逃げずらくなるということです。
このような現象が人間にも起きるのではないかと考えた人がいました。
それがチェコにあるプラハ大学のヤロスラフ・フレグル氏です。
フレグル氏は、自分が車に轢かれそうになっても反応しないことに気づき、トキソプラズマ感染によるネズミの行動変化の話を知っていたことから、自分はトキソプラズマに感染しているのではないかと疑いを持ちました。
そこで、トキソプラズマ感染症について14年間研究を続けた結果、感染者は交通事故に会う割合が2倍高くなると言うことを明らかにしました。
トキソプラズマ感染症に関するその他の報告
トキソプラズマ感染症については、他の研究者も研究をしていて、その研究結果もご紹介しておきます。
独断主義的行動やルールを破る行動に関して、感染者では有意に増加するという研究結果。
Flegr J, Hrdý I (1994) Evolutionary papers: influence of chronic toxo-
plasmosis on some human personality factors. Folia Parasitol
(Praha) 46(1):22–28
214人の非感染者と49人の感染者で行った実験では、男性では対人関係の構築が低下、セルフコントロールが低下、だらしない格好をするなどの結果が得られましたが、女性では有意な差は見られなかったという性差も明らかになっています。
Lindová J, Novotná M, Havlícek J, Jozífková E, Skallová A, Kolbeková P, Hodný Z, Kodym P, Flegr J (2006) Gender differences in behavioural changes induced by latent toxoplasmosis. Int J Parasitol
36(14):1485–1492. https://doi.org/10.1016/j.ijpara.2006.07.008
逆に女性でみられる行動の変化として、セルフダイレクトバイオレンス(自傷行為)がトキソプラズマ抗体に比例して大きくなると言う報告もあります。
Pedersen MG, Mortensen PB, Norgaard-Pedersen B, Postolache TT (2012) Toxoplasma gondii infection and self-directed violence in mothers. Arch Gen Psychiatry 69(11):1123–1130. https://doi.org/ 10.1001/archgenpsychiatry.2012.668
ドイツの都市部に住む1000人で慢性的に感染、潜在的に感染、最近感染した人で攻撃性と衝動性に関して実験。女性では攻撃的になり、男性では衝動的になるという結果。
Cook TB, Brenner LA, Cloninger CR, Langenberg P, Igbide A, Giegling I, Hartmann AM, Konte B, Friedl M, Brundin L, Groer MW, Can A, Rujescu D, Postolache TT (2015) BLatent^ infection with Toxoplasma gondii: association with trait aggression and impulsiv- ity in healthy adults. J Psychiatr Res 60:87–94. https://doi.org/10. 1016/j.jpsychires.2014.09.019
同様に攻撃的、衝動的になるという報告
Coccaro EF, Lee R, Groer MW, Can A, Coussons-Read M, Postolache TT (2016) Toxoplasma gondii infection: relationship with aggres- sion in psychiatric subjects. J Clin Psychiatry, 10.4088/ JCP.14m09621 77(3):334–341
トキソプラズマ感染症による行動変化のメカニズム
どうやってこのような現象が起きるのか、マウスを使った実験をイギリスの研究チームがしていたので、ご紹介します。
トキソプラズは宿主に感染すると、白血球の一種である樹状細胞に感染しているということが明らかになりました。
樹状細胞に感染することで、樹状細胞に神経の興奮を抑制する「GABA」という物質を生産させます。
GABAといえば、一時期人気になったチョコレートGABA。あのGABAです。
そして、この大量に生産されたGABAを樹状細胞が再び受け取ることで、これがシグナルとなって樹状細胞は脳に移動することがわかっています。
この移動の際にトキソプラズマも一緒に脳に運ばれることとなります。
脳内のGABAの量は通常、調整されていますが、トキソプラズマが脳内に移動してくることで、GABAの量が乱されてしまうと考えられています。
このGABAの量の脳内での乱れは、統合失調症や不安感の低下を引き起こすということがわかっていて、これがトキソプラズマ感染症による行動への影響のメカニズムではないかと考えられます。
トキソプラズマは自身が感染して子孫を増やしていくために、このようなメカニズムを利用した戦略をとっているのはすごく面白いですね!
最近は猫を飼っている人も多いので、起業家が増えるかもしれませんね〜。
ではまた!