おじさん達はなぜ最近の若い奴はダメと言ってしまうのか

まず皆さんに質問です。

会社の上司や親戚など、年上の人から「最近の若者は・・・だ」

と言われたことはありませんか?

言われたことはなくてもこのフレーズを聞いたことくらいはあるでしょう。

今回は、この現象のメカニズムについてみなさんにご紹介したいと思います。

おじさん達はなぜ最近の若い奴はダメと言ってしまうのか

 おっくん「今回の話を見ていただければ、”言う側”のみなさんは言うのを控えてもらえるかもしれないし、”言われる側”の皆さんは、この人こう言うこと考えていってるんだなってわかってもらえると思います。」

 おっくん「最近の若いやつはって昭和のおじさんとかがいってるイメージじゃないですか?いつから言われてると思う?」

 たっきー「戦後くらいかな?」

 おっくん「なんとね。紀元前」

 たっきー「紀元前!?」

実はこのフレーズ、紀元前624年にはこのフレーズが言われていたと考えられています。

さらに紀元前と言われるように世界中のどの時代でも、どの宗教でも、どの場所でも言われていた言葉なのです。

つまり、人類は普遍的に若者が自分の世代よりも衰退していると考えてきたわけです。

Kids these days に関する研究

今回の論文では、最近の若い奴はダメだ(Kids these days)のメカニズムに関する研究をご紹介します。

この論文では下記の3つの質問を年長者に実施し、その傾向を説明しています。

1. 年長者をどれくらい尊敬しているか

2. 読書がどれくらい好きか

3. 知能が高いかどうか

これらを調べた結果が以下のようになりました。

上記の結果から年長者への尊敬の念と読書が好きかどうかに関しては若者が自分たちより劣っていると感じる傾向が強かったと言うことがわかります。

一方で、知能の優劣については、上記2つと比較すると若者が劣っているとは考えにくい傾向があることもわかりました。

 おっくん「これらのことから全ての事柄について若者が衰退していると考えるわけではないと言うことがわかります。」

 たっきー「なるほど」

 おっくん「さらに最近の若者が劣っていると感じる傾向は、自分が得意なことではより顕著になることもわかりました。」

 たっきー「ただ、自分が苦手なことでも若者が劣っていると感じてしまうんやね」

全ての事柄について若者が劣っていると感じるわけではないけれども、年長者への尊敬の念と読書については若者が劣っていると感じやすいということがわかりました。

そして、全ての事柄について自分の得意なことであるほど、その傾向は強くなると考えられます。

ここまでで、「最近の若い奴は」と言う言葉が、単に若者への幻想的な憂ではないと言うことがわかって頂けると思います。

記憶バイアスがかかっている

得意なことほど、最近の若者は・・・と思ってしまうと言う結果からわかるように、「自分たちの世代と若者」と言うよりは、「自分と若者」を比較しているように見えます。

なぜ「俺たちの世代」と比較するのでしょうか?

これを考える際に登場するのが「記憶バイアス」です。

人は今の自分を過去の自分に投影して考えてしまう傾向があります。

つまり自分の世代の過去にも現在の自分を投影してしまっている。

もしくは、自分がよく勉強できる場合、自分の周りにもできる人がたくさんいたはずで、その人たちを自分の世代全体と勘違いしてしまっている可能性があります。

つまり自分たちの世代のサンプリングが誤っている状態です。

読書についてさらに掘り下げる

本をよく読んでいると評価されたおじさんを対象として4つの質問をする実験を行います。

1. あなたが若い時どれくらい質問していましたか?

2. 同年代のおじさんたちは現在本を読んでいますか?

3. おじさん世代が若い時本を読んでいましたか?

4. 現代の若者は本を読んでいますか?

この結果、本をよく読んでいると評価されたおじさんは同世代に対して本を読んでいないという評価をすることがわかりました。

現代の若者も読んでいないけど、同世代も自分と比べると読んでいないと評価したわけです。

しかし、憂うのは若者だけなのです。

つまり、最近の若いやつはと言う言葉は、社会における若者への憂ではなくて、自分が得意なことについて若者だけが衰退していると考えてしまう偏見なわけです。

そして面白いことに、この読書家のおじさんに、

「あなたが若かった頃のおじさんたちはよく本を読んでいましたか?」

と聞くと、

「いや、読んでいなかったよ」

と答えるのだそうです。

今までずっと言われ続けているのに、このような現象が起きるのはおかしいわけです。

最近の若いやつだけが衰退しているというおかしな現象が起きているんです。

自分の若い頃の年上世代も今の若者世代も読書をしていないと感じているにも関わらず、最近の若者はと言うふうに現在の若者にだけ憂を投げかけるという傾向があるんですね。

主観と客観による記憶バイアス

別の実験で、客観的に本をよく読む人と判断された人は、自分の友達はあまり本を読んでいなかったと評価するのに対し、客観的には本をよく読む人ではないという人で、主観的には読書が好きという人は自分の友達も本が好きだったと考えるという研究結果があります。

 おっくん「つまり、昔の自分の周りの人間の記憶は、客観的な記憶によって思い出されるわけではなく、主観によって思い出されると言うことなんだよね」

このことから昔の記憶を思い出すのには主観の記憶が重要だと言うことがわかりました。

それならば、「昔の主観の記憶をずらしてやろう」という実験が行われました。

まず、被験者には「あなたの読書量は全体の上位何%です」ということが知らされます。

これを点数に関係なく被験者ランダムに振り分けます。

例えば、読書量が多い上位5%の人に、あなたは下位15%ですと言う結果が知らされるなどです。

客観的評価を改竄するわけです。

この結果、被験者の自分の主観的評価も下がることがわかりました。

さらに、過去の自分がどれくらい本を読んでいたかという評価も落ちることがわかりました。

つまり、主観的な記憶は客観的評価の操作によってねじ曲げることができたと言うわけです。

最近の若い奴がダメなわけではない

以上の結果からわかったことは、

1. 自分が得意なことでは顕著に「最近の若い奴は」現象が起きる。

2. 自分の世代の過去は、主観的記憶によるバイアス(現在の自分の状態による)がかかっている。

つまり、最近の若い奴はと言う現象は、現在の若者を客観的に見ている一方で、比較する過去の自分世代に関しては主観的なバイアスのかかった記憶を元に見ることしかできないため、現在の自分を過去の自分たち世代に投影することで現在の若者だけが衰退していると考えてしまうわけです。

これが紀元前から言われ続けてきた「最近の若い奴は」というフレーズのカラクリになっています。

実際には、紀元前にスマートフォンもなかったわけですし、人類の知能や情報、技術はどんどん進化していっているわけで、若者には年長者からのこのような言葉にめげずに頑張ってもらいたいものです。

 おっくん「年長者世代のみなさんも不用意に言わないようにしましょう!」

 たっきー「俺も言ってまう気がするけどなw」

ではまた!