【肉の科学】安くて固い肉でおいしいステーキを作る【分解酵素編】
スーパーで普通に売っている安くて固いお肉・・・科学の力を使ってどうにか美味しいステーキにすることはできないものか?
そんな疑問を男なら誰しも持ったことがあるでしょう。
今回は、安い肉でも柔らかく美味しいステーキが食べたい!という人に向けてタンパク質分解酵素の観点から料理を科学します。
安くて固い肉でおいしいステーキを作るポイント
いわゆる霜降りではない、普通の安くて固いお肉を柔らかくて美味しいステーキにするという無理難題を叶えるポイントとして今回ご紹介するのが「酵素」です。
酵素とは何か?
酵素というというと、発酵のイメージが強くお酒作りとかのイメージを持つ方が多いと思います。
しかし、酵素は我々人間をはじめとした生物がみんな持っているタンパク質で、生体内ではこの酵素を使っていろんな化学反応を手助けしているんです。
例えば、唾液に含まられるアミラーゼという酵素はデンプンを分解し、胃で分泌されるペプシンはタンパク質を分解します。
このような酵素を消化酵素と言いますが、この他にも肝臓で分泌されるアルコールを分解する酵素などの代謝酵素も存在します。
このように、我々が生きる上で必要不可欠な「酵素」の力をお借りしようというのが今回の企画。
肉を柔らかくしそうな酵素は何か?
無数にある酵素の中から肉を柔らかくしそうな酵素を厳選してみました。
肉を柔らかくする=タンパク質を分解するという考えのもと、蛋白質分解酵素に着目しています。
今回エントリーする酵素を持つ食材たちはこちら
- タマネギ
- 大根
- キウイ
- パイナップル
これらの野菜や果物は蛋白質分解酵素を多く持つと言われています。
タンパク質を分解すると旨味成分であるアミノ酸になるので、旨味アップも期待しています。
一体どの食材が一番お肉を柔らかく、美味しくすることができるのでしょうか?
蛋白質分解酵素の力を検証
実験方法
今回の検証方法としては、肉を野菜や果物の抽出液に浸して焼いて食べるというもの。
まずは、主役となる食材をカット、すりおろしていきます。
肉は分厚さや重さが違ってしまうと酵素の力を正しく比較できないので、厚さや重さを揃えます
今回は厚さを1cm、重さを100gに揃えて検証します。
野菜や果物は液体状になるようにすりおろして使用しました。
牛肉とすりおろした液状の野菜たちをビニール袋に入れて約1時間マリネします。
1時間マリネした肉の状態
1時間マリネしたお肉の状態は・・・
- タマネギ:肉が青色に変色
- 大根:肉の赤色が溶け出したような状態
- キウイ:肉の繊維がバラバラになりほぐれている状態
- パイナップル:肉の原型を最もとどめている状態
焼く前の触った感じの柔らかさは、柔らかい順に以下の通り
キウイ >> 大根 > パイナップル = タマネギ = 生肉
肉を焼いて実食
肉を焼いて味や柔らかさなどを評価してみました。
大根
焼く前に触った感じは柔らかくなっていた大根はどうだったでしょうか?
大根でマリネした肉を食べた印象としては、柔らかさにはあまり影響はなく、味が変化したという印象。
鉄分が強調されているのか、レバーのような味に変化していました。
固いお肉を柔らかく美味しく食べるという意味ではあまり良い結果とは言えないかな?
パイナップル
パイナップルは肉を柔らかくしそうなイメージがありましたが、やってみると味、柔らかさ共に通常の生肉
とほとんど違いはありませんでした。
こちらもあまり意味がなさそう・・・。
キウイ
焼く前に最も崩れていたキウイですが、焼いてもやはり柔らかい。
ただ、ジューシーな柔らかさというよりはボロボロに崩れたお肉という印象。
味にも変化があり、酸味の強い味になる。
こちらも美味しくお肉を食べるための手法としてはイマイチそう?
タマネギ
「シャリピアンステーキ」という料理があるようにタマネギに肉を浸して柔らかくするのは一般に知られていますが、今回の検証動画では柔らかさ云々よりもタマネギの味が強すぎて最もまずく感じてしまった・・・。
恐らく条件などが間違えていたとも考えられるため、後日やり方を変えて検証。
こちらも併せてご覧くださいませ。
タマネギの蛋白質分解酵素を利用したシャリアピンステーキはまじでうまい・・・。
最初の検証ではすごーーーくまずかったのですが、ちゃんとした作り方で作ったシャリアピンステーキは本当にうまい。
作り方については今回は控えますが、タマネギに含まれる蛋白質分解酵素は確かにお肉を柔らかく美味しくする効果がありそうです。
おまけ:タマネギに浸すとなぜ変色する?
牛肉をタマネギでマリネしたものは黒く変色していましたが、これはなぜでしょうか?
かなり気になったので、調べたところ面白いことがわかりましたで、おまけにご紹介。
タマネギには「ケルセチン」という物質が多く含まれています。
ケルセチンは鉄イオンをキレートして、緑黒色化することが知られています。
つまり、鉄イオンとケルセチンが結合すると黒っぽくなるということです。
今回の実験で、タマネギに浸した牛肉が黒っぽく変色していたのはこのためと思われます。
体に害はないので、ご安心を。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は、肉を柔らかく美味しく食べるために蛋白質分解酵素の力を借りれないか検証しました。
4種類の野菜や果物で検証したところ、タマネギに浸すのが最も効果の高い調理法という結果になりました。
タマネギに浸す調理法を使ったステーキは「シャリアピンステーキ」と呼ばれていて、1990年代初頭に生まれた調理法です。
やはり、料理人の料理に対する探究心は素晴らしいですね。
科学の力でこの”経験”を越えるべく、料理の科学を探求しなくては・・・。